チョコレート没収

チョコレート没収(小説)
小説掌編

思いつきで書いた超短いバレンタインの話。

 

 朝からクラスの女子が騒がしい。

「もう最悪。朝、彼氏に渡そうと思ってたのに」
「一緒〜! あたしも取られた!」
「なんで今日に限って持ち物検査すんのかねえ」
「なくしたらマジ許さん!」

 浮足立っていた男子たちもがっかりしている様子だ。
 もらえる予定だったチョコレートを担任が没収してしまったのだから。
 でも放課後になったら返してもらえるんだし、そんなに嘆くこともないと思う。

 渡す時のドキドキをその場で経験できるあんたたちが羨ましい。

 

「――おい、伊野」

 放課後。
 帰ろうと中庭を通ったら担任が私を呼び止めた。
 そういえばここは、担任が顧問をしている部室の前だったっけ。

「これ、取りに来ないのか?」

 担任は窓から見えるように、ライトブルーとゴールドのボーダー柄でラッピングされた包みを軽く振って見せた。

「あー、もうそれ必要ないんでセンセー食べていいですよ」
「ん? ……え……?」
「じゃあセンセー、さよーなら〜」
「えっ、伊野、もしかして失……」

 閉口してしまった担任をそのままに、私は学校を出た。

 溶かしたブラックチョコレートに刻んだオレンジピールを少し混ぜて、型に流した簡単なチョコレートだったけど、オレンジピールが好きだと前に話していたから食べてくれるといいな。

 半年前に結婚して幸せいっぱいの担任には不要な物だろうけど。


〈終〉