登場人物メッセージ

今までずっと仕事が忙しかったから、実は女性と付き合うのが久しぶりで……。
彼女には内緒だけど、一緒に暮らし始めた頃は少し緊張してたよ。

そばで彼女の色んな一面を見られるのは嬉しいな。
いつも仕事の時間はきっちりに見えたけど、意外とギリギリの時間まで寝ていたり。
あまり着飾ったりしない人で服も最低限しか持たず、必要な物しか買わない。
料理も材料これだけ？っていう少なさなのに、出来上がったものはすごく美味しい。

彼女は倹約家だ。無駄遣いもしないし、彼女からプレゼントを強請られたこともない。

だから今、すごく贅沢させてやりたい衝動に駆られている……。

この間の捜査会議の日、いつも一番乗りのロゼが来てなくて４階の窓からギルドの前の道を覗いたら５、６羽くらいのヤマバシに囲まれてるロゼがいたんだよな。

何してんのかと思って呼びに行ったら、あいつ餌付けしてたんだよ。
俺が近付くとヤマバシがみんな飛んで逃げてったけど。

会議が始まるとロゼは一言もしゃべらず静かに冷気を放ってて、会議室の温度が二度ほど下がったな……。

ロゼと一緒にいたら女子のギルド員に誘われて飯に行ったんだけど、一緒にいたロゼはずっと目眩ましの魔法で隠れてていないことになってた！

女の子はずっと、ロゼはいないのか、一緒じゃないのかってしつこいし、あいつは姿隠したまま俺に女の子押しつけてサリダとしゃべってんだからなー。

ロゼは結構腹黒いんだぜ？

最近サリダが給料上げろってうるさいのよね。

確かに看板娘と呼べるくらいにはギルド員たちに人気だし
あの子はラモントの仕事大好きだし
うちの娘はあの子に懐いてるし
サリダもうちの娘みたいなもんだし……

――って、贔屓は良くないわ！
だからホール店員の給料はみんな同じなのよ！

能力給じゃないからホール店員の子たちは基本、年功序列になっちゃうのよねえ。
誰かいい給与システム考えてくれないかしらー？

ラモントで働き始めてしばらくした頃、掃除用具入れに幽霊が出るって噂があったのよね。
掃除用具入れの小部屋にはモップやバケツがいくつか置かれていて、人が一人入れるくらいのスペースしか空いていないような狭い場所でそこに何かがいるの。

ヒ……ヒ……。
……ス……ズ……。

って声が聞こえてきて！

私、そっと掃除用具入れの扉をノックして開けてみたら真っ暗な中に光が差して、私の影が伸びた先に足があって！
膝を抱えて座り込んでるサリダがいたの！

ほらあの子、大きな声を出すと物を壊すでしょ？
だから泣くときは掃除用具入れに入って泣いてるのよね……。

サリダは私の３ヶ月後に入ってきた同期だからその頃は心配の種が尽きなかったわねー。
あの子は口が堅いから何か寂しさを抱えていても話してくれないし、私にできるのは買い物に誘ったり一緒に出かけて一緒に飲んで楽しむ時間を共有することくらいなのよね。
今ではラモントで一番仲のいい友達よ。

サリダがラモントに来てからちょっかいを出すようになったのは、あいつ叫ぶと物を壊すだろ？
それが面白くてからかっていたのが、いつの間にかそれは俺の特権みたいに思うようになってたんだ。

他の女みたいに簡単に落ちないしそこがまた惹かれる要因でもあったんだろうな。
徐々にサリダに接触する野郎が邪魔で排除するようになり、感覚が麻痺していった。
あの頃の俺は随分驕り高ぶってたと思う。

でも想いを伝えたことはなかった。
サリダの答えはいつも決まってたから振られるのが怖かったんだろうな。
しょーもねえプライドが邪魔して言えなかったなんてな……。
ちゃんと真正面から玉砕してれば何か変わってたのかもしれない。
道を違えることだって――。

あれはずっと夢だったんじゃないかと思えるくらい治療が進んで正常な判断ができるようになってきて、ようやく失ったものの大きさが分かった。
窓から見える長閑な景色や何気ないあの日常はもう、手の届かないところにあるんだな……。

サリダが本棚の本を開いて捲るでもなくしばらく眺めてまた本棚に戻してたから、気になってその本をこっそり開いてみた。
そしたら以前、俺が書いた手紙が３枚入ってた。
ずっと取っておいてくれてたんだな……。

でも今読み返すとちょっと恥ずかしい。
ペンの持ち方が悪かったからすごく筆圧強いし、殴り書きに近くて……。

今はだいぶマシになったんだ。
マシになったと思えるってことは前より上達したってことだよな。
サリダが練習に付き合ってくれてるおかげだと思う。

今度、彼女に何かプレゼントを贈ろう。
メッセージカードを添えて。

ロゼにもらった手紙を本に挟んで仕舞ってたんだけど、この間それを眺めてたらロゼに見つかっちゃった！

事件の時にもらったやつだし捨てた方がいいかって聞いてみたら

「サリダの物だから捨てる必要はないけど、でもその最後の１枚はもういいんじゃないかな。
嫌なこと思い出さない……？」

だって。
あの時のことは思い返すと色んな思いが蘇るけどロゼと別れていた間、何度も読み返したあの手紙は今でもとても大切なものなの。